THE911&PORSCHE MAGAZINE -102

5G X 自動車
・5Gとは
 最近、テレビを見ていると、大手通信キャリアから5Gのコマーシャルを見る。コマーシャルでは5Gという単語だけが連呼され、5GのメリットやこれまでのLTEとの違いなどははっきりとは分からない。そもそも5Gとは何なのか、どんなメリットがあるのかを調べてみた。
5Gとは5Generationのことで、これは国際連合の専門機関であるITU(国際電気通信連合/International Telecommunication Union)が定めた無線通信の企画の第5世代目の企画という意味である。そう、5GのGはギガではなくジェネレーション(世代)なのである。1980年代登場した1Gから始まり、最新の5Gは2015年にITUが発行したITU-2020という標準規格に基づいている。図1にはITU-2020が求めている5Gの性能と2010年に発表された現在の4Gの定義であるIMT-Advancedと比べてみた(図1)。
図1:4Gと5Gの性能差
 5Gでは、現在主流となっている4G(LTE-Advanced)に比較して、更なる高速、多数接続、低遅延が可能となる。この性能の向上によって何がもたらされるのであろうか。
 最初に高速であるが、通信速度が現状の4Gに比べて下りで6倍以上、上りは10倍で10Gbpsに達している。この速度はWi-Fiの最新規格であるIEEE802.11acの6.9Gbps を超え、有線LANに匹敵する。
よく、5Gのメリットとして、動画ファイルを数秒でダウンロードできたり、4Kなどの高精細の動画がスムーズに視聴できたりすることが挙げられる。確かに、ファイルのダウンロードやアップロードの速度は大幅に向上し、スマートフォンによる動画視聴はよりスムーズになり、高精度な4K動画を見ることも可能になると思われる。しかし、画面サイズの小さいスマートフォンやタブレットではフルHDで十分で4Kによるメリットはあまりない。4Kのメリットが生かされるのは、遠隔操作や遠隔診断といった分野となろう。
 それよりも、現在、自宅にフレッツなどの光回線を引いて、インターネットを利用している場合、通信速度だけ見ると、5G回線の方が速く、電話のようにインターネットも自宅に固定回線を敷設しなくなる可能性が高い。
 次に、多数接続であるが、5Gでは4Gの10倍の端末が接続できる。これによって、スマートフォンだけでなく、IoTデバイスの接続が可能となる。IoTデバイスには、家電、Webカメラ、建設機械や自動車、さらに道路上にある各種センサーや信号機なども含まれ、 ネットワーク接続できるあらゆる機器が含まれる。
 そして、通信遅延が少ないことも5Gの特長である。4Gの場合、データ通信時に10ミリ秒(0.01秒)の遅延が発生するが、5Gは1ミリ秒(0,001秒)と低遅延なので、リアルタイムでのデータ送受信が可能となる。これによって、伝送する音や画像の遅れが極端に少なくなる。このメリットは、遅れが許されない作業での利用が可能となる。具体的には、ロボットを使った遠隔手術や自動車や建設機器などの遠隔操作などが挙げられる。
 2020年7月に東京女子医科大学はNTTドコモと共同で5Gを活用した遠隔手術支援システムと移動型スマート治療室「SCOT」を用いた実証実験を2020年10月~2021年3月に実施すると発表している。( http://www.twmu.ac.jp/univ/news/?kbn=1&ym=202007)
 また、ソフトバンクと Wireless City Planning株式会社は共同で、2020年3月24日から25日に5Gを活用した「車両の遠隔運転」の応用事例に関するフィールド実証実験を実施している。( https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2020/20200420_02/)
 KDDIも2020年11月5日から2020年11月8日の期間で、一般社団法人新宿副都心エリア環境改善委員会、ティアフォー、MoT、損保ジャパン、アイサンテクノロジーは、東京都や新宿区の協力のもと自動運転車両の公道走行実験を行っている。
( https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/10/09/4720.html)
・5Gで変わる自動車
 では、5Gによって自動車およびモビリティー環境はどのような変化をするのであろうか。
あたりまえではるが、5Gは通信であるので、「つなぐ」という部分が主な役割となる。自動車とつなぐというと真っ先に思い起こすのは「コネクティッドカー」である。現時点で普及しているコネクティッドカーの機能としては、1つはトヨタが2019年9月17日に発表した新型カローラから搭載を開始した「ディスプレイオーディオ」のようにスマートフォンを接続することで、カーナビや音楽プレイヤーなどの機能を得るというものである。  スマートフォンの普及は、2010年以降急速に普及しており、8割に近い世帯がすでに保有していることから、この方法は現実的であると考えられる(図2)。
 確かに自分でも、最近はCDの販売店やレンタル店も減り、聞きたい音楽はスマートフォンに入れているかので、これまでのようにカーオーディオ機器に音楽を録音したり、CDを再生したりすることは殆どなくなっている。
図2:スマートフォンの普及度合い
出典:総務省「通信利用動向調査」をもとに作図
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html)
 将来、自動運転が現実のものとなると、自動車はパッセンジャーだけでなく、ドライバーにとっても移動空間としての役割を持つことになる。今年の1月に開催されたCES2020でSONYが突然EVを発表し話題となったが、SONYはEV販売に参入するのではなく、車内エンタテインメントの実現のために開発したと発表している。
(https://www.sony.co.jp/SonyInfo/vision-s/news.html#entry1)。
 確かに、5Gの性能であれば、移動中であっても高音質の音楽や映像を受信しながら、車内で楽しむことができるだろうし、フロントスクリーン自体に映像表示ができれば、いつでもドライブインシアターになる。
 もう一つ、5Gで実現しうる分野としてV2X(Vehicle-to-Everything)がある。車載センサーなどでは得られない情報を入手する手段として、今後の自動運転やMaaS(Mobility as a Service」の普及には欠かせない技術である。IT業界としてはこちらの方が新たな参入の可能性が高いと考えているだろう。なぜならV2XはIoTの分野でもあり、自動車をパソコンやスマートフォンのようなデバイスの1つと見なすことが可能となるからである。
V2Xには主に以下の4つの分野がある。
 V2Vは自動車同士の通信で「車車間通信」と呼ばれる。信号の無い交差点など死角になっている場所で自動車どうしが相互に通信しあって検知して衝突を避けることが可能となる。さらに、後続車への情報の通報(例えば、障害物の存在の通報、救急車などの緊急車両の接近など)やACC(アクティブクルーズコントロール)の精度向上への活用も考えられる。
 クラウンやプリウスなどトヨタの一部の車種にオプション装備可能な「ITS Connect」にはすでにV2Vが組み込まれている。しかし、搭載車両が少ない現在、V2Vが作動することは稀である。
 V2Iはクルマとインフラ間の通信、「路車間通信」と呼ばれる。車載通信機と道路沿いの信号機や標識などに設定された通信機間で相互情報通信を行う。赤信号での停車、最高速度の管理などの交通規則の遵守などが可能となる。
 実はトヨタの「ITS Connect」には、V2VとともにV2Iも組み込まれている。信号機情報の通信については、ホンダやアウディなども採用済である。ただしインフラ側の整備が必要なので、普及には時間がかかる。
 歩行者のスマートフォンの通信機能を使って、接近する歩行者を検知して衝突回避を図ることが可能となる。GPSなどを使った位置情報の取得や、高齢者や小学生など弱者情報の取得、走行している自転車の位置情報なども対象になるであろう。さらに、V2Pでは、個人情報などのプライバシーの保護も課題となることが予測される。
 歩行者に対する対応を自動車側で対応する場合、カメラやレーダーを使って検知できるものには良いが、物陰から飛び出すような場合は検知できないので、交通事項を限りなく少なくするためにはV2P機能が必要である。
 V2Nは自動車をインターネットに接続するもので、当然クラウドサービスへの接続も含まれる。V2Nによって、クルマの制御ソフトの更新や地図情報の更新、娯楽情報、エンタメコンテンツの配信などさまざまなサービスが受けられ、スマートフォンのように購入後も機能拡張が可能となる。
 日本では、カーナビ自体は普及しているが、自動車をインターネット端末とする技術は、欧米に比べて普及していない。まるで、ガラケーのようにある部分では先行していても、それは国内の独自技術や企画であり、グローバル化では後れを取っている。
 5Gはまだ始まったばかりで、サービスを受けられるエリアも限られ、通信速度も下りで4.1Gbps 、上りで480Mbpsと4Gよりは高速ではあるが、論理値に比べてまだまだ遅い。
 5G本来の性能の実現とエリア拡大を待たなければならないのは事実であるが、国、自動車メーカー、通信キャリア、通信機器メーカーは共同でV2Xを含むコネクティッドカーとMaaSの推進に努力するべきである。なぜなら、自動運転と並んでこの分野も新たな自動車そしてモビリティーの競争分野であるからである。
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